今度こそ、練愛

どう見ても社長さんではない男性が、店内へと目を向けた。ふわっと揺れる髪、不機嫌そうに口を結んだ男性の鋭い目に見覚えがある。



このカフェの前で女性と喧嘩していた人!
正確には、彼女に絡まれていたというべきか。



思い当たったところで突然、男性が振り向いた。あまりにも凝視しすぎていた私は避ける間もなく目が合ってしまい、ひとまず会釈。



それから、彼の手に握られた白い花へと視線を落とす。



「その花……、何ていう名前ですか?」



言ってから後悔。
私が聞きたかったのはそんなことじゃない。



「ああ、カラー」



顔色ひとつ変えないで彼は答えた。
あの時、喧嘩してた時と同じように突き放すような抑揚のない声で。



これ以上の会話を拒むような口調に、どう返事したらよいのかわからない。このままお礼を言ったら、二度と話す機会を失ってしまいそうだ。



だけど白い花を持っている以上、この人が代行業の従業員の可能性はある。社長さんの代わりに打合せにやって来たのなら、私から声をかけなければ。



「あ……」

「大隈有希さん? 依頼の人だね?」



意を決した私が口を開くより早く彼が尋ねる。ぴくりとも笑みを見せない彼は、社長さんとは対照的で不安を感じた。




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