今度こそ、練愛
「川畑(かわばた)です、よろしく」
名刺を差し出す際も彼は少しも笑顔を見せない。まるで嫌々引き受けたと言わんばかりの態度で、目も合わそうとしない。
少しでも下手なことを言ったら、機嫌を損ねて帰ってしまいそうな感じ。
「大隈です、よろしくお願いします」
「依頼の件だけど……」
私の挨拶を聞くのも面倒くさそうに話し始める。
本当にこの人で彼氏の代行が務まるのだろうか。一応話を進めていくけれど不安だらけ。
仕事に必要な情報を次々と尋問されて、もう後には引けない。無事に母をクリアするためには、彼に依頼するしかないのだと言い聞かせる。
「では契約は一日、段取りはこちらで決めさせてもらうから、君は合わせてくれたらいい」
「わかりました」
社長さんより年は若いはずなのに、彼の上から目線な話し方が気になる。もうひとつ気になるのは、彼が口にした契約という言葉。
喧嘩していた彼女にも、契約と言っていたような気がする。
あの時も仕事だったのかも?
「それと私情は一切挟まないこと、契約以上の関係は持たない。くれぐれも注意してほしい」
彼は怖い顔で念を押した。
そんなこと、私だって百も承知。不安を抱えながらも契約と支払いを済ませる。
次に彼と会う時は、いよいよ母が来る日。