今度こそ、練愛

私はひとつ契約違反を犯してしまった。
状況はどうあれ、契約では違約金を支払わなければいけないことになっている。契約書には金額は明示されていなかったけど、犯してしまったものは仕方ない。



いくら請求されるのだろう。
今ここで支払える金額だといいのだけど……
もう不安なんてない。ほとんど諦めに近い気持ちで彼の答えを待つ。



「僕の方こそごめん、あんな事になって、お母さんに余計な心配をかけてしまった」



沈んだ声が降ってくる。
弱気とも思える声に顔を上げると、彼は悲しい目をしていた。初めて見た時の冷ややかで何も寄せつけない強さなど感じられない。



どうして、川畑さんが謝るの?
まだ昭仁を演じているの?



私の目の前で謝っているのが昭仁を演じている川畑さんなのか、本当の川畑さんなのか、わからなくなってくる。



だけど契約に背いたのは私。
契約では彼氏代行とはいえ許される行為は、手をを繋いだり腕を組むことまで。キスなどの行為は禁止と言われていたのに。



私情がなかったのは事実だけれど、私からキスしてしまったのだ。





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