今度こそ、練愛

ちょっと待て、どういうこと?



「わざわざって、何ですか? わざわざ福沢さんに何か言ったんですか?」

「いや、福沢さんが……、大隈さんのことを気に入って、話したいって言うから……」



意を決して尋ねたら思った通り、木戸先輩がおどおどし始める。
やっぱり何か隠している。



あの時、福沢さんがそんなことを思っていたなんて。もし川畑さんが現れなかったらどうなっていたんだろう。
考えると気持ち悪いけれど、私は蹴ってでも帰っていただろう。



「だから、福沢さんが私と一緒になるように仕組んだんですか?」

「仕組んだわけじゃない、福沢さんが帰るって言い出したんだ、今なら終電に間に合うからって」

「間に合わなかったんです、福沢さんが忘れ物を取りに戻るから、ついて来てって言われて……」



何か違和感を覚えた。



もしかしたら福沢さんは、わざと忘れ物をしたのかもしれない。
終電を逃すように私について来てと言ったのかも……、自惚れかもしれないけれど可能性はある。



「木戸先輩、福沢さんに私を紹介するつもりだったんですか? だから懇親会に誘ってくれたんですか?」



心を落ち着かせて問いかけると、木戸先輩は力なく頷いた。



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