今度こそ、練愛
しばらくテーブルで待っていたら、店長さんがエプロンを外して戻ってきた。
「『シャイニー』の店長、高杉郁恵(たかすぎいくえ)です。よろしくお願いします」
「大隈有希(おおくまゆき)です、よろしくお願いします」
名刺を手渡した高杉さんが履歴書へと視線を落とす。
ジャンルや職種は違うけれど、これまでに既に何社か面接をこなしてきた。それなのに、やっぱり毎回緊張してしまうのは変わらない。
「前に勤めていたのは設計会社? どうして辞めたの?」
「単調なデスクワークだったので、何か他に新しいことをしてみたかったんです」
毎度尋ねられることだから、答え慣れているつもり。人間関係なんて本当の理由は言えない。
「そう、事務職と販売職とは仕事内容も休日もまったく違うから、新しいことには違いないけれど……、前の仕事と比較してもらったら困るの」
「はい、わかっています。比較したりしません、初心に戻って一から始めるつもりです」
高杉さんの目を真っ直ぐ見て、力を込めて答えた。
私は生まれ変わりたいんだ。
前の職場での失恋、誹謗、嫌な過去を捨て去って真新しい自分に。
だからこそ前の職場とは全く条件の違うこの店で働いてみたいと思ったのかもしれない。
この店に運命を感じたのかもしれない。