鬼部長と偽装恋愛はじめました
香坂さんはしばらく黙ったままで、祐平をジッと見つめている。

意志の硬さを感じて、言葉に詰まっているのか分からない。

「もう話は十分だろう? 分かったら、帰ってくれないか? オレたち、今日は休日だから」

祐平が言うと、香坂さんは視線を外しため息混じりに立ち上がった。

「分かったわ。帰る。お邪魔してごめんなさい。それから、祐平って変わったわね。前はもっと仕事にストイックで、モチベーションも高かったのに」

香坂さんは足早に玄関に向かうと、靴を履いてノブに手をかけた。

「オレは、変わってなんかないよ。あの頃のオレたちが、気づかなかっただけだろ?」

祐平のその言葉を聞いた香坂さんは、なにも言わずそのまま出ていった。

「ごめんな、香奈美。驚いたろ? 香坂はオレの……」

「元カノなんだよね?」

「知ってたのか……?」

絶句している祐平に、私は研修の日に聞いてしまった噂話と、香坂さんからも聞いたことを話した。
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