佐伯先生×ゆあちゃん【短編集】
「もしかしてきみは…焼いているのか?」

キリっとにらまれた。

「そんなわけないでしょ!」

またがつがつ食べてはじめた。

そういうことか…
彼女の返答より行動がよほど物語っている。

「葉月くん、こちらへ来るんだ」

「いや」

こちらを見向きもしない。

「ゆあ」

今度はちらっと目をよこした。

「おいで」

できるだけ優しい声でそう言ったら、渋々這うようにやってきた。
彼女を持ち上げて膝に乗せた。

「どうしたんだ」

彼女髪をかきあげてきいた。
最初は目を合わせなかったゆあも、ためらいがちに話し出した。

「研究室きたら、さえきせんせい当てのチョコレートがいっぱいあって…わたし、きょうがバレンタインだって、忘れてて…それに覚えててもあんなにきれい作ったり、包んだりできないから」

わたし不器用だから、と自分の両手を見つめた。
しょんぼりしている。
それで目の敵みたいに食べてたのか。
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