今日は恋をするには良い日だ
何が何だか判らないのに
「別れたって、え?なんで?いつ?どうして?何があったの?振ったの?振られたの?」
 希の言葉に、私は畳み掛けるように言ってしまった。
 彼女は、上原希。
 作家である私を支えてくれる優秀な編集者でもあるが、友人としても付き合っていてプライベートの話もする。それが、私の作品のヒントになることもあったりして。仕事熱心ではあるけれど、長く付き合う彼氏もいて、とても魅力的な女性だ。
 正直、今風のかわいらしさというのは当てはまらない顔。
 特徴と言えばちょっと吊り上った猫目、気の強いところが目に現れているタイプ。
髪も一度も染めたことがない黒い長い髪。そろそろ白髪が出てくるのが心配と言いつつも、茶髪の彼女は確かに想像できない。海外の人が思い浮かべる日本人といったところだろう。
 希が新入社員で雑誌配属になった時、かけだしのライターとして私は出会った。
彼女と組んで仕事をすることが増え、3年後には氏名入りの記事を書かせてもらえるように。
当時は毎日のように顔を合わせ、企画を考え同じ時間を共有した。校了明けには打ち上げと称して飲み会をすることも多く、週刊誌だったこともあって毎週飲みに行っていたようなものだ。その時にはもちろん仕事の話ばかりしていたけど、気が合って息の合った仕事のできる相手だった。
それから私が小説を書き始めたのと、希が文芸誌に移動になったのはどちらが先だったか・・・。
私のデビュー作はその文芸誌ではなかったけど、私が文庫本を一冊出せるころには連載を依頼され、担当にもなり、再び一か月に一回顔を合わせる関係に戻ることに。
社会人同士なので、疎遠になる時期もあるはずなのに、その時々でちょうど同じ媒体を共有できて過ごせた稀有な存在。
それから仕事の繋がりが切れても、私たちは一年に一回は近況報告をするために会い、会えば必ず朝まで飲みながら尽きない話を話し続けて、いつの頃からか仕事以外の話もする十五年の付き合いになっている。

今日も、前回から一年は空いたところで連絡が来ていつものバーで待ち合わせた。ちょうど、新作のプロットに悩んでいてたこともあって、何かとっかかりがないか、と思ったのも事実だけど、いきなり彼氏との別れ話を聞くことになるとは・・・

 私の浴びせるような質問への希の第一声は
「なんでって・・・」
のつぶやきだった。
< 1 / 2 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop