四百年の恋
 この大学では、教員免許を取得する者が大部分だったが、並行して学芸員の資格を取る者も多かった。


 実習はちょうど桜の時期なので、学生には喜ばしいご褒美だった。


 四年生は教員採用試験の準備や、就職活動などで忙しいのだけど。


 息抜きのために、ほぼ全員が毎年参加していた。


 「松前行きは、春の花見以来だね」


 車で一時間ちょっとの距離なので、行こうと思えばいつでも行ける場所なのに。


 案外、縁のない場所だった。


 「時間があれば私たち、札幌に行きたいって考えるしね」


 札幌は特急や車でも、四~五時間要するにもかかわらず。


 「ねえ真姫。あの人誰だろう?」


 「どの人?」


 「ほら。教卓のまん前に座っている男子。見たことなくない?」


 「ん……?」


 麻美がそっと指差した方角を、真姫は眺めてみた。


 角度的に、横顔しか見えないものの。


 鼻筋の通った、きりっとした感じの男子学生。
< 12 / 618 >

この作品をシェア

pagetop