四百年の恋
 「殿、どういうことですか? 先日来私と姫の婚約の話は進んでいて。あとは婚儀の日を待つだけで」


 「この領内において、私が認めぬ縁組など、成立し得ない!」


 冬雅は突然、大声で広間中の者たちに宣言した。


 「殿……?」


 衝撃のあまり、言葉を失う冬悟。


 月姫もまた、目の前で起こっている事態を受け入れられず、呆然としていた。


 「この話は、白紙だ。そなたは我が娘の婿となり、この福山家の次期当主となるのだ」


 有無を言わさず、冬雅は命令を既成事実化させようとしたのだが、


 「嫌……です」


 「何?」


 「嫌です!」


 冬悟ははっきりと拒絶した。


 「当主である私の命令が聞けないのか?」


 それに対し冬雅は、非常に冷たい目で冬悟を見据える。


 「殿のお言葉に逆らうとは、無礼であるぞ」


 冬雅の側近たちが、冬悟に小声で告げる。


 「私は、月姫を正室といたします! それ以外の縁組は、お断りいたします! たとえ殿のご命令でも」


 そう明言する冬悟に対し、


 「月姫を室(妻)に迎えることは、許さぬ」


 冬雅は冷酷に言い放った。


 「何が問題なのです!」


 冬悟は今にも冬雅に詰め寄らんばかりの勢いだった。


 「そなたは我が娘との婚姻と引きかえに、次期当主となるのだ。月姫のことは心配いたすな。姫の面倒は、私が見る」


 「え?」


 「月姫は我が側室といたす」
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