四百年の恋
 直接自分が手を下したわけではなくとも、結果的に弟を死に追いやったという事実は、冬雅を生涯苦しめるだろう。


 死の瞬間まで、罪の意識に苛まれるだろう。


 生涯、犯した罪を背負って生きていかなくてはならない。


 (殿はどうやって耐えていくのだろうか) 


 都から来た偉い僧が、依然として念仏を唱えている。


 冬悟が葬られているのは、僧が祈りを捧げている辺り。


 墓標も許されなかった冬悟は、冷たい土の中で永遠の眠りに落ちた。


 やがて僧の読経が途絶えた時。


 使用人が二人係で、木の苗を運んできた。


 そして冬悟の墓所付近に、苗を植えた。


 京から運ばれてきた桜の木。


 冬悟の鎮魂のための植樹だという。


 今はまだ苗木。


 十年ほどすれば、わずかばかり花をつけるようになるだろう。


 数十年を経て、見事に咲き誇る大樹に……。


 (その様を私は見ることがあるのだろうか)


 桜の開花の時期は毎年、冬悟の命日の前後となるはず。


 (花を目にするたびに私は、冬悟さまを思い出さざるを得ない……。冬悟さまのいない春を幾つ過ごせば、私は冬悟さまのおそばへたどり着けるのだろうか)


 気がつけば姫の頬を、一筋の涙が伝っていた。
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