四百年の恋
***


 側室になる際、特に儀式を経るわけではない。


 男女の関係となり、それが既成事実化すれば、それだけでいい。


 ただ、側室となるにも、それなりに相応しい家柄は必要。


 ゆえに月姫は、当初の予定通り形だけ叔父夫婦の養女となった。


 名字が明石から安藤に変わった。


 福山城下の安藤の屋敷に隣接した土地に、いつの間にか福山冬雅は姫の館を用意していた。


 姫はそこに住まわされ、冬雅の訪問を待つ生活が始まった。


 正室、そして城の者たちの目もあるので、あまり頻繁に通うのは好ましくないはずなのに。


 冬雅は夜な夜な姫の元を訪れた。


 婚姻関係を結んだばかりなので、気を遣っているのか。


 それとも初めの内は夢中になるものなのか。


 いずれ時は経てば熱情も収まって来て、やがて別の女に目移りしてくれれば……と密かに期待しながら。


 姫は冬雅の求めに応じ、体を重ね続けた。


 「……これまで様々な者たちが、私の元へ娘を送り込んできたが」


 冬雅は姫の顔にまとわり付く髪をよけながら告げた。


 「自ら欲して手に入れた女は、そなただけだ」


 そして強く抱かれても、姫の心はここにはない。


 「早く子ができれば」


 「え?」


 「男子を産めば、次期当主の母として、そなたの地位は約束される」


 「私が、殿の御子を……」


 「今もしも私に万が一の事があれば、後ろ盾に乏しいそなたの行く末が気がかりだ。だが子がおれば、今申したとおり次期当主の母という立場が、そなたを守るであろう」


 冬悟以外の子を産むだなんて、考えたくもなかった。


 (いや・・・何も考えたくない。このまま消えてしまいたい)


 抱かれている間、早く時が過ぎ行くことだけを願い、部屋の奥の暗闇をうつろな目で眺めているだけ。
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