四百年の恋
 (福山は一度たりとも、俺に笑った顔を見せなかった)


 当時を振り返る。


 虚無的な雰囲気さえ漂わせていた、愁いを帯びた表情。


 笑顔など・・・真姫の前でしか見せなかったのでは。


 あの福山冬悟が「世を忍ぶ仮の姿」として用いていた、福山龍之介なる存在は。


 「まず来週から、授業が本格的に始まり……。今月末から連休前にかけて、進路に関する個人面談を……」


 「センセ、それさっきも言ってたよ」


 ただメモの文字だけを口にしていた圭介は、再び同じページを読み始めていたようだ。


 即座に清水優雅に突っ込まれた。


 「あっ、すまん」


 「今の教師って、カンニングペーパーを読み上げるだけなの?」


 くすくす笑っている。


 心ここになし状態だった圭介は、とりあえずは目の前のホームルームに集中することにした。


 (あれこれ考えても仕方ない。なるようにしかならないんだ……)


 再び目の前に現れた二人。


 大村美月姫と清水優雅。


 しかも圭介の担任するクラスに。


 しばらく様子を見ていようと圭介は思った。


 彼の中の止まっていた時計が、再び動き出した。
< 307 / 618 >

この作品をシェア

pagetop