四百年の恋
 「どういう意味だ? 親御さんの希望とか、特別に何かあるのか?」


 「まあそんなところ」


 「ちなみに、親御さんは何を勧めてくるんだ?」


 「俺の全然興味のない学部。あ、そうだ。それより俺、やりたいことがあるんだよね」


 「どういう内容だ?」


 「トウゲイ」


 「は?」


 「陶芸だよ。焼き物の」


 「そうか。陶芸をやってるのか。有名な先生とかに付いて習っているのか?」


 「昔、親と旅行で泊まったホテルで、一日体験講座で陶芸教室があったの。そこでチャレンジしたら、楽しかったんだよね。それから母さんに駄々をこねて、習わせてもらってもう十年になるかな」


 「なるほど。趣味の領域というよりも、本格的に習ってみたいと考えているのか? ならばその道に進んでも」


 「だめ。母さんが許してくれない」


 「反対されているのか」


 「言い出す余地もないよ」


 「そういえばお前の母さん、自営業だったな。後を継いでほしいって期待しているのか?」


 「母さんの仕事は、残念ながら俺じゃ継げないよ」


 「……お前の家庭内の事情に首を突っ込めないが、次回の面談の時までには、はっきり相談しておけよ。お前の成績だったら、日本の大学どこでも大丈夫だと思うから、もっと真面目に将来のこと考えた方がいいぞ」


 そう締めくくって、この日の面談は終了した。


 清水は家庭の話になるとどことなく歯切れが悪く、消化不良な思いが圭介には残った。
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