四百年の恋
 「一生独身を貫くのか?」


 卒業から次の春で18年。


 大学院に進んだ者も多かったためか未だに独身の割合も多いが、結婚して子供がいる連中も今は少なくない。


 「ま、お前は見た目も若いし、これからまだまだ出会いもあるかもしれないけど」


 出会い。


 圭介にはこれまで何度となく、お見合いや合コンの話があった。


 その都度笑って断ってきた。


 「あれからずっと忘れられないのか」


 真姫を失ってから、四季のうつろいは虚しさのみを与えた。


 全ての色彩が色褪せてしまった。


 「気持ちは分かるが、時間は間違いなく流れ続けているんだ。それから目を逸らすなよ」


 (それはそうだ、分かってはいるのだけど……)


 真姫ほどに愛せる女はいなかった。


 「初芝はどうだ」


 初芝静香。


 現在は同僚。


 その名が出た瞬間、圭介は飲んでいたビールを噴出しそうになった。


 「そんなにおかしいか? 彼女、美人だし。しっかりした職業を持ってるし。あ、お前の同僚だったな」


 「無理だな。初芝と何かあったら、俺か初芝か、どっちかが学校にいられなくなる」


 教師同士の恋愛。


 教師×生徒ほどのタブーではなかったものの。


 思春期の生徒たちにやはり影響を与えるので、教師同士の恋愛は発覚した時点でどちらかが転勤させられるという「掟」が、紅陽学園には存在していた。
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