四百年の恋
 「いつぞや福山さんが、冬雅が弟の婚約者を奪い取ったとか、自害に追い込んだとか言い放ったじゃないですか」


 「ああ、そんなこともあったな」


 相変わらず圭介は上の空。


 「だから僕、気になって。文献などを調べて、冬雅の業績に再度目を通してみたのです」


 「ふーん、それで?」


 「冬雅のそんな話、どこにも書かれてないんですよ」


 「……じゃ福山の奴が、適当なこと言ったんじゃねえの?」


 「僕もそう思って、調べものをやめて・・・。最後に家系図を見直したんです。弟って誰のことかと思って」


 「弟、か」


 「冬雅には五人の異母弟がいるんです。次男以降は家督相続の見込みがないため、出家させられたり、他家に養子に出されたり」


 「昔の人は大変だったんだな」


 真姫を探してそわそわしている圭介は、相変わらず適当な返事。


 「年の離れた末の弟は、二十歳過ぎで若くして亡くなっているのです」


 「昔の人は、寿命が短かったからな。お気の毒に」


 「その弟、名はフユサトと言うのですが」


 「福山家の兄弟は皆、名前に冬の字が付いてるんだったな」


 「そのふゆさと、幼名が龍之助(たつのすけ)っていうんですよ」


 「ふーん。えっ、龍之助?」


 圭介は驚いた。


 それは例の福山と、同姓同名になるから。
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