四百年の恋
 「あ……」


 急に体を振るわせ始めた福山。


 「福山?」


 圭介も何が起きたのだか分からず、近づいて手を触れようとした。


 「触るな!」


 圭介の手を払いのけ、福山は苦しそうな表情を見せる。


 「福山くん……?」


 心配した真姫が、福山の顔を覗き込む。


 「真姫……」


 一瞬穏かな表情を見せたが、すぐに福山は顔を背けた。


 「見ないでくれ!」


 両手で顔を覆ってしまった。


 「どうしたの? 顔色が……」


 さらに覗き込もうとした時。


 真姫は、福山の手の異常に気が付いた。


 「福山くん、その手……!」


 圭介も気づいた。


 福山の手が、腐敗を始めている。


 「おい、福山……」


 気のせいかと思い、圭介は福山の顔を覗いた。


 手の隙間から見えた頬もまた……腐敗を始めていた。


 「お前、いったい……!」


 気のせいなどではなかった。


 福山の全身が、腐敗を始めていたのだ。


 (どういうことだ。こいつが俺に触れた途端……)


 福山が触れようとした胸元の辺りを、圭介は確認のために触ってみた。


 ひんやりとした金属の冷たさを、手のひらが感じた。


 十字架の付いたネックレス。


 古道具屋でたまたま購入したのだけど、十字架はかなりの年代ものらしかった。
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