四百年の恋
 ~真姫、今まで偽っていてすまなかった~


 彼は真姫に語りかけ始めた。


 ~人ならぬこの身ながら、お前のそばにどうしてもいたくて。世を忍ぶ仮の姿を用いて、お前に近づくことを思いついた~


 人ならぬこの身?


 世を忍ぶ仮の姿……?


 「あ、あなたはいったい誰なんですか? 福山くんとはどういう……」


 真姫はやっとの思いで聞き返した。


 ~私の名は、福山冬悟(ふくやま ふゆさと)。福山家三代目当主・福山冬雅(ふくやま ふゆまさ)の末の弟。今から400年前に無実の罪を着せられ、死に追いやられた~


 「ふくやま、ふゆさと!?」


 背後でオタク男が叫び声を上げた。


 それもそのはずだ。


 400年も前に死んだはずの人物が、今目の前に姿を現したのだから。


 ~やがて過ちを悔いた兄が、盛大な法要を執り行い、供養のために私の墓の側に桜の木を植えた。その祈りが強すぎて私は成仏できず、魂は桜の木の中に閉じ込められた~


 桜の木……。


 「あの……松前の公園の片隅に咲いていた、薄墨という名の桜の木?」


 真姫の問いに、冬悟はそっと頷いた。


 ~魂を木の中に閉じ込められたまま、私は再会の日を待ち続けた。月光姫、お前との~


 「えっ、私?」


 冬悟はまっすぐに真姫を見つめていた。


 ~一目見た時、すぐに気がついた。お前は月光姫の生まれ変わりだと~
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