彩りを吐いて君はゆく
彩りを吐いて君はゆく




白が好きだった。

真っ白なキャンバスに、真っ白な絵の具で、真っ白な花の絵を描く。誰かは“変わり者”だって陰から私を笑ったけれど、別にそれでも構わなかった。

絵を描くのは好きだったし、誰かと笑い合うのは少し苦手だった。絵の具の匂いは好きだけれど、汗の香りは得意じゃなかった。だから、高校に入ってすぐ、地味だと言われて人気のなかった美術部に入部した。

毎日毎日、ひたすらに絵を描いた。真っ白な絵を描いた。赤は好きだ。青も黄色も橙も、どれもそれなりには好きなつもりだった。だけど、どうしても他の色には筆が伸びなくて、私はひたすらに真っ白な絵を描いた。


「白が好きなんだね」


先輩は、とても鮮やかな人だった。

部室の隅で黙々と白ばかりを塗り重ねる変わり者な私に、先輩だけが、そう言って声をかけてくれた。

先輩の描く絵は、先輩に似てとても鮮やかで、あたたかだった。まるでその色に体温があるように生き生きとした絵を、とても楽しそうに描く。誰にでも優しくて、誰にでも好かれる。月並みな言葉だけれど、まるで太陽みたいな、そんな人だった。

入部して初めて目にしたのも、先輩の水彩画だった。赤い花を撫でる青い葉。口付ける紫の蝶、手を伸ばすオレンジ色の蜘蛛。眩しいほどに色鮮やかで、息を呑むほど美しい絵だった。その才能は初心者の私の目から見ても明らかだったし、実際にいくつものコンクールに入賞するほどの腕を、先輩は持っていた。

先輩は、鮮やかな人だった。

赤みたいに暖かくて、青みたいに凛として、緑みたいに柔らかで、白のように清らかで。私にあるものと、私にないものを、先輩は全部持っていた。

私は、その彩りに恋をしていた。
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