華麗なる安部里奈

庇ってくれたお礼に

夜9時過ぎ。



幼稚園児の私はもう寝なくてはいけない時間で、部屋でパジャマに着替え、歯を磨いたりして、寝る支度をしていた。すると、下の階の階段付近からアッちゃんの声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、待ってよ~」

ちょうどその頃、テッちゃん達も寝る支度をしていたらしい。テッちゃん達は寝る前に、私の母におやすみの挨拶に行くのが日課になっており、ちょうどその挨拶帰りのようだった。

父の部屋で注意されてから数時間。テッちゃんと顔を合わせていなかったせいか、私はテッちゃんの顔が見たくなった。でも、顔を合わせたらテッちゃんなんて言うんだろう。

私は心配な気持ちと、テッちゃんの顔を見たいとい気持ちが入り混じり、しばらく2階の洗面所の鏡の前で自分の顔を見つめていた。




「お嬢様、そろそろお部屋に戻ってお休みしましょう」

マリちゃんが洗面所のそばから声をかける。

「うん」

そう返事をした私だったが、その時はもうテッちゃんに会いたいという気持ちで心がいっぱいになっていた。




「あとは自分でやるから。マリちゃんも自分のお部屋に戻って」

「えっ、そうですか? 分かりました。じゃあ、おやすみなさいませ、お嬢様」


そう言うと、マリちゃんはゆっくりとした足取りで自分の部屋のある1階のほうへと下りていった。



< 26 / 135 >

この作品をシェア

pagetop