年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
残されたほうの辻井さんは、忌々しげにその後ろ姿を見ていたけど、すぐに一度目を閉じてはーっと息をついた。
目を開けると、漂っていた冷たい空気は消えていて。

「すみません。変なところをお見せして」

私に向かって申し訳なさそうに笑う、その顔はいつもの辻井さんだった。

「ノーブルの、辻井さん、ですよね?」

今更ながら恐る恐る訊くと、苦笑いを浮かべて穏やかに頷く。

「そうです」
「さっきの人は……」
「兄です。双子の」

多分そうだろうと思ったけど、やっぱりそうなのか。この顔が世の中に二つあるなんて、なんて贅沢な話なんだろう。

「双子だなんて、知りませんでした……」

「誰にも言ってませんから。大輔も、僕に兄がいるのは知ってますけど、双子だとは知りません」

その言葉は少し意外だった。意図的に隠しているような言い方だけど、なんで隠さなきゃいけないんだろう?
それに、なんで喧嘩していたんだろう……?

私の戸惑いを感じ取ったのか、苦笑いのまま辻井さんが言った。


「少し、場所を変えて話せませんか? 飲み直したいんです。付き合ってください」
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