年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
そこに私の声が聞こえたのか、スタッフルームのドアが開いて、黒川くんが出てきた。
私を見て、あの犬コロみたいな笑顔を浮かべる。

「さわさん! 来ていただいてありがとうございます!」

やっぱり癒される笑顔だな、と思う。
犬を飼っている人はもう家族の一員だって言うけど、多分弟がいたらこんな感じなんだろうな、きっと。

辻井さんが立ち上がって私のコートと荷物を預かってくれた。
黒川くんは早速、こちらへどうぞ、とこの前と同じ席に案内してくれた。こちらに記入していただけますか、とボードを渡されて、名前や住所を書き込んで渡すと、あれっ、と素っ頓狂な声をあげる。

「さわさん、って下の名前だったんですか?」

やっぱり勘違いしていたか、と苦笑いを返しながら、私が頷く。

「ごめん、どっちか言わなかったからわかんなかったよね。片桐です」

改めて名前を名乗ると、黒川くんが申し訳なさそうな顔をする。

「俺、下の名前連呼してたんですね。すみません、片桐さん」

片桐さん、じゃよそよそしくて、物足りない。
さわさん、と呼ぶ彼の声が聞けなくなるのはとても惜しく思えて、つい言ってしまった。
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