初恋
新しい春

自立

年が明けると、就職ガイダンスなるものが開かれることになっていた。

学生になったのがまだつい最近のことのように思えるのに、
もう就職を考えなければいけないなんて、とんでもなく無理なことのように思える。

樹里ちゃんは、年末のお休みの間に例の彼とけんか別れしたらしい。
「もう人生最悪や。」とぶつぶつ言いながらガイダンスに参加していた。

終わったあと、学内のカフェでお茶を飲んでいると、
「誰か結婚してくれへんかなあ。」なんて言っている。

わたしはただ、苦笑しながら聞くしかなかった。

一年前のわたしだったら、一緒になって、きっと直ちゃんのことなんか考えながら
「ほんまやなあ。」とにこにこ笑っていられたんだと思う。

だけど、男の人だって、悲しいことも、辛いことも、
誰かにすがりたいときもあるってことを知ってしまってから、
わたしはもっと強くなりたいと思うようになっている。

ずっと直ちゃんには甘えてばかりだったから、今度こそ、もしまた直ちゃんに辛いことがあったとき、支えてあげられる自分でありたいと、そう思うのだ。
そのとき、わたしの助けが必要かどうかはわからないけど、それでもそういう自分でいたいと考えている。

年末に実家に帰ると、父も母も、そして兄も、
わたしが地元に帰って就職をするものと決め込んでいたような風だった。

やっと理容師の資格を取った兄は、「しばらく家でバイトでもしたらええ。
嫁に行くまではお前くらい食わせてやる。」なんて一人前の口をきく。
母は母で、「そうや。こっちでいい人見つけ。」と、にやにや笑っている。

わたしがまだ、神戸にいたいなんて言ったら今度こそ力ずくでも連れて帰りそうな雰囲気だ。

そうはいくもんか。
どうにかして、自分できちんと食べていける仕事を見つけようと心に誓っていた。

樹里ちゃんが浮かない顔のまま帰ってしまい、しばらく資料をめくっていると、留美ちゃんが一人で歩いてくるのが見えた。

「就職?」

留美ちゃんが紙コップのコーヒーをテーブルに置きながら言う。

「早いもんやなあ。」

「そうやろ。何も考えてへんからどうしようって感じや。」



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