初恋
そう言ってから、ふと、留美ちゃんの将来のことが気にかかった。
それこそ、結婚なんかも考えているんだろうか。
そうしたら楽しい家族になるんだろうな、なんて少し笑えてしまう。

「留美ちゃんは何か考えてる?」

すると、留美ちゃんは少し恥ずかしそうな顔になった。

「うん。やりたいことはある。」

「何?教えて。」

「いや。恥ずかしい。」

留美ちゃんらしくない。
なんだってはっきりものを言う子なのに、と思ってさらに聞いてみると、
本当に珍しいことに、ちょっと顔を赤くしながら、

「院に行ければいいな、と思ってる。」と言った。

もう少し勉強してみたいねん。
できれば来年は留学もしてみたい。
そのためには英語も必要で、今勉強してて三月には試験を受けてみるつもり。
でも、受験したときのほうが頭よかったみたい、と苦笑いしながら、

「誰にも言わんといてや。身の程知らずって思われそうやから。」と言う。

まわりにのテーブルにも学生がたくさん座っていて、みんな楽しそうに話をしている。
その中で、どれだけの人間が自分の将来とか、夢とか、そういうものを持っているんだろう。

ちょっと照れた顔が、今まで見てきた留美ちゃんの顔で、
一番かわいいと思った。

そう考えると、やっぱり留美ちゃんみたいな子と友達になれたのがすごく恵まれている気がして、わたしはうれしくなってしまう。

「すごいやん!がんばってな。尊敬するわ。」

お世辞ではなく、心からそう言うと、

「やめて。そんなん言うてくれるの、美代子だけやわ。」とまた照れている。

バイトがあるから、と二人で立ちあがり、校門に向かって歩くときに、

「りゅうさんにも言うてみたら?」と聞いてみた。

すると、今度は、吹いてくる冷たい風にまっすぐに顔を向けて、

「いや、自分のことやから。」とはっきり言った。

留美ちゃんらしい、とマフラーを鼻の下まで上げながらこっそり笑っていると、

「それになあ、」とやや弱気な声がする。


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