初恋
「よっしゃ!」と、ビールの入ったコップを空けて留美ちゃんが言う。

「合コンしよ。ここらでひとつ行っとこ。」

「合コン?」

「そや。新しい出会いを見つけに行こ。直ちゃん見返したれ。」と景気がいい。

「そっか、そういうのもありかな。」

ありなわけない。
どうやったって、誰と会ったって、直ちゃん以上の人なんて見つかるわけはなかった。

もっとも、そんな気持ちは留美ちゃんにはお見通しで、
それでも、「直ちゃん、後悔させたらなあかんな。」と笑いながら言った。


後悔も何も、わたしはあれ以来直ちゃんと連絡をとるのをぱったり止めていた。
携帯電話を持ち始めて以来、こんなに長い間直ちゃんにメールをしないのは初めてだ。

何を言えばいいのかわからなかった。

今まで送ったメールを読み返してみると、
本当にくだらない内容ばかりで、
章子さんといる直ちゃんが、そのメールを笑って読んでいる姿を想像してしまって、
どうしようもなく落ち込んだ。

きっと、子どもっぽいと思ってたんだろうな。
見たこともない、想像だけの、大人の章子さんと自分を比べては
打ちのめされた気分を味わう。

一人で部屋にいるときは、そんな脂汗の出るような時間をすごしていた。

そうしている間に七月がやってきて、
短大に入って始めての試験が行われることになった。

単位を落としたら大変だから、そのときばかりは勉強に熱中して、
樹里ちゃんと二人で図書館に通った。

留美ちゃんも、合コンの手配なんかしてるひまはないらしくて、
たくさん本を抱えた姿を何度か廊下で見た。

「終わったら打ち上げしような!」とお互いをメールで励ましあって、
なんとか試験の日程を終えると、
もう夏休みが始まろうとしていた。





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