あなたの一番大切な人(1)
「もう遅い。」

 男性は、一言そう述べると再び沈黙を決めた。

 --これからこの国は餌になる。

彼と彼女が守ろうとしたものを、自分があっさりと壊してしまう。

多少の罪悪感はあるが、彼女が世継ぎを身ごもったこの日を逃せば、自分の待ち望んだ願いは一生成就されることはない。

 どうしてもこの国が必要である。どうしても滅びてもらわなければならない--

「ミーチェ、愛してるよ」

自分の未来のカギを握る美女を手中に収めた彼は、悪魔そのものだった。

悪魔の呪文により悲痛な快楽に身をゆだねた彼女は、遠方に旅立ってしまった男性をひたすら思い続け、地獄が過ぎるのを耐えるしかなかった。

 城内は賑やかな歓声と優雅な交響曲に包まれ、その空間を構成するすべてのものが、これから起こる最悪の事態など想像すらできなかった。

 ましてや他所で酒宴を楽しんでいた国王には、最愛の者の叫びですら聞き取ることができなかった。

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