短編集『秋が降る』
「おふくろ、息子のことも忘れたのかよ」
お父さんが涙声で言っているが、私には子供なんていない。

いない! いない! いない! いない!
いない! いない! いない! いない!

扉の閉まる音がして、静寂が訪れた。

しばらくはそのままの姿勢でいたが、私はゆっくり起き上がると扉のそばに行った。
話し声が聞こえる。
静かに扉を開けると、廊下でお父さんたちが先生と深刻な顔で話をしていた。

私は診察室に戻ると、奥の方へゆっくりと進む。

「あ・・・」

扉だ。

診察室の奥に、『従業員用』と書いてあるドアがあった。
静かに押してみる。
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