私の師匠は沖田総司です【下】
「……少ししか時間は稼げへんで」
「十分。死ぬなよ、以蔵」
「もちろん。隙をみてウチも逃げるわ」
以蔵が刀を抜き、蒼蝶を抱えたまま俺が窓に身を乗り出した瞬間、部屋の戸が勢いよく開かれた。
開かれた戸から見えたのは夏の空のような浅葱色の羽織を着た男たち。その中に組長さんの姿はみえない。
「しっかり掴まってろよ」
「はい」
蒼蝶の腕が首に回されると、俺は窓から地面に飛び降りた。
寺田屋から刀同士が交わる音が聞こえる中、俺は蒼蝶の手を引いて夜の町を走る。
長州藩邸へ逃げよう。そう思ったときだった。
俺たちの前に浅葱色の羽織を着た人間が立ちはだかった。
「やあ、坂本。ちょっとぶりだね」
組長さんが笑顔で言う。すでに抜かれた刀を手に笑う組長さんからは、隠しきれない殺気を感じた。
蒼蝶も何か感じたのか、身体を強張らせる。
俺は蒼蝶の身体を背で隠すと、すぐに刀を抜き正面に構えた。