スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
◇泣いた夜と、一線を越えた朝
荒木さんと秘密のランチをしてから2週間が経ち、今日も製作班で仕事をし、会議室の時計は午後7時49分で、そろそろ帰り支度を始めようかな。

ノートパソコンの電源を切り、片付け始め、明日は土曜日で休日だし、自分の部屋を掃除したいし、本屋さんで野球のルールブックを買いたいのと、デジカメの下見に行きたいしと、明日の事を考えるとワクワクする。

「お先に失礼します!」
「お疲れ様。また週明けに」

肩にバックを掛け、中畑さん達に挨拶して会議室を出て廊下を歩いていると専務室から高坂専務、荒木さん、そして橘さんが出てきた。

「お疲れ様です」
「遅くまでありがとね。気を付けて帰ってね」
「はい!」
「荒木も来週の出張を頼むね」
「本当は行きたくないけど」

出張?荒木さんが?!この前、球宴の事で出張があるかもって言っていたけど、急に決まるんだ。

「しょうがないだろ。この日程しか部屋が安く抑えられなかったんだし、お土産は日持ちするクッキーが良いな」
「遊びに行くわけじゃない。食べたければ通販で買って」

高坂専務のリクエストに荒木さんは冷たく返し、先に階段を降り始めた。

「私もお先に失礼します」

荒木さんの姿が見えなくなると橘さんが慌てて階段を降り始めたので、廊下に私と高坂専務だけになる。

「製作に集中させてるけど、気持ち的にどう?」
「今は落ち着いています。以前荒木編集長に漢字の間違いが多いと指摘されたので、先輩達の原稿に触れて言葉を増やせるよう、読みながら気になった言葉やルールをノートに書いてます。明日は野球のルールブックを買って、自分なりにスポーツの事をもっと知ろうと思います」
「良いね。自分のペースを掴めるようになってね」
「はい、お先に失礼します!」

私は高坂専務より先に階段で1階まで行くと、ロビーで荒木さんと橘さんがいてドキッとする。どうしてこの2人がロビーに?

「荒木さんの事が好きなんです!」

橘さんの声がはっきりと聞こえ、嘘…、橘さんが荒木さんの事を好きだなんて気付きもしなかー…“た”と言う言葉が続かなかったのは、橘さんが荒木さんに抱きつく姿で、私は肩に掛けていたバックを落としてしまった。

ヤバい!!

荒木さんがこちらに顔を向け、前髪で表情は分からないけど口元はハッとしていて、私に気づいたのが分かる。

私はバックを急いで拾って、俯いたまま早歩きしながら2人の前を横切った。

「お先に失礼します」

早口と早歩きで四つ葉を急いで出て、俯いたまま藍山駅に向かい、絶対に顔を上げたら変な顔というか、ふ…、うぅ…、こんな顔、誰にも見られたくなくて、大粒の涙を流しながら歩き続ける。

想いを寄せ合う人が私以外の人に抱きつかれるのを見るのが、こんなにも苦しいものなんだ…。

藍山駅に近い交差点の信号が赤になり、私は立ち止まって袖口で必死に目元を拭い、鼻を何度も啜っていると、パアッと強い光とエンジン音が近付いて、眩しくて片方の手で影を作る。

そして目の前に止まったのは1台のバイクで、それに跨って運転をしている人がヘルメットをしていても誰だが分かるのは黒ジャケットに黒いシャツで、思いつくのは1人しかいない。

エンジン音が無くなり、運転をした人がヘルメットを外すと、私の目の前に止まったバイクを運転していたのは三輪さんだった。
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