スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
side荒木仁

『おかけになった電話はお繋ぎすー…』
「駄目か…」

藍山駅で宝条さんのスマホに何度も電話を掛けても繋がらず、大きな溜め息を吐きながらロビーでの事を振り返った。

高坂さんに呼び出されて俺だけの出張を打診され、出張に行くのはいいがその間は宝条さんは1人だし、例え一泊二日だけど離れるのは嫌だから、専務室から出た時に宝条さんに会い、会話の流れで出張の話になり、『本当は行きたくない』と高坂さんに言う。

先に階段を降りていたら背後から橘さんに声をかけられたけど、『話したいことがある』と言われ、ああ、想像が出来るなと思い、ロビーにて聞くことにした。

『荒木さんの事が好きなんです!』

薄々は感づいていたけど俺には宝条さんがいるし、橘さんは前回の本の事もあり、俺ははっきりと断ろうとしたら抱きつかれ、するとドサッと音が聞こえ、まさかー…、音の方に顔を向けたら宝条さんが俺達の事を観たのは確実で、ハッとする。

1階のロビーでのことを見られたのは想定外だし、橘さんに告白されて抱きつかれたのも予想が出来なかった。

まだ抱きつかれていたので俺達の前を足早に通り過ぎた宝条さんを追いかけることが出来なくて、くそ…、俺は橘さんの両肩に手を置いて、思いっきり体を離す。

「迷惑」
「でも…」

尚も食い下がろうとする橘さんに俺は苛立つ。

「あのさ、俺に構わないでと言ったのを覚えていないの?」
「覚えていますけど…、専務室にくる度に荒木さんのこと…」
「その呼び方も辞めて。あくまで一社員同士だし、俺は本のことでも印象が悪く感じたし、想われてもー…」
「仁、それ以上はストップ!2人共、もう遅いし帰りな」
「仕事をしねぇなら、さっさと帰れよ」

高坂さんと姫川が表れ、俺は思いっきり溜め息を吐いて、3人に背を向けて歩き、数歩程歩いて顔だけ振り向く。

「今は誰とも話したくないから、スマホに連絡しないで。したら着信拒否する」

そう吐き捨てて四つ葉を出て、宝条さんを探そうと藍山駅に向かいながらスマホに電話を掛けても通じないし、最終的に電源をオフにされてしまった。

藍山駅に着いたらスマホに着信があって宝条さんか?と思ったが、画面には亮二の名前が出たので何で亮二なんだろう?俺は通話ボタンを押して、耳に当てる。

「今は亮二とー…」
「ひよっこ、泣いていた」

俺の声と同時に被せるように亮二が話すけど、宝条さんが泣いていたって、どうして亮二がそんな事を知っているんだ。

「撮影帰りにバイクで走りながら近道で通ったが、ひよっこ…、ずっと泣きながら歩いていたぞ」
「………」
「泣いている女には手を出さない主義だから、安心しろ。ただ、次は遠慮せずお前からひよっこを奪いに行くし、覚悟しろって本人に言った」
「宝条さんは何て答えた?」
「お前に言うわけねぇよ。俺はそこまで親切じゃなねぇ」

通話がガチャと切れ、俺はもう一度スマホで宝条さんに電話をかけようと改めて宝条さんの連絡先に掛けると、今度はコール音が鳴り、良かった…電源が復活したのはいいが、まだ繋がらない。

頼む…出てくれ…、すると通話が繋がった音がした。

「宝条さん?」
『………い』
「今、何処にいる?」
『シェアハウスの最寄り駅の改札です』
「俺、まだ藍山駅だからタクシーで向かう。駅前にファストフードがあって、そこは遅くまで開いているから中で待っていて」
『でも…』
「橘さんのこと話したい。そして、“一緒に帰ろう”?」
『は…い…』

電話口で泣いているのが分かり、俺は空いている手をギュッと握り、早く宝条さんの元に行こう。

「急いでタクシーを捕まえるから、切るよ」
『…い…』

胸が痛いまま通話を終え、タクシーを手配してシェアハウスの最寄り駅まで車を走らせてもらった。
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