スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
会議室の空気は静かで、キーボードの打つ音や、ペンが走る音、会議室の時計の音しかしていなくて、誰も口を開こうと、ううん、開けなくて、私もキーボードを打つ音が小さい。

どんどん時計の針が進み、お昼の時間でも私も先輩達もだんまりで、仁さんは会議室には来ないままだ。

ガチャっとドアが開いて皆でドアの方に顔を向けると入ってきたのは佐藤さんで、体がビクッとする。

「急に顔を向けられると怖いんだけどな」
「しょうがないだろ。荒木編集長かと思ったんだから」
「え?荒木編集長がどうしたの?」
「実はさー…」

田所副編集長が佐藤さんに荒木編集長が書いているシンクロの事を話すと、佐藤さんの表情が暗くなり、佐藤さんは田所副編集長の隣に座る。

「6月号の様にならないと良いな」

佐藤さんは落ち込みながら言い、確かに佐藤さんも自分が時間をかけて作った原稿が選手の不祥事で2つも読まれる事は無くなって…、どうしよう、仁さんもだったら。

あんなに熱心に毎月通って取材をして、部数会議でも6月号と7月号の数を勝ち取ったのに…、ドアがまた開いて入ってきたのは高坂専務だけだった。

高坂専務がつかつかとホワイトボードの所に歩いて行くのを皆で黙ったまま見つめ、そしてホワイトボードに貼られてある仁さんのシンクロの付箋をバッと外すと、私達に振り返る。

「シンクロの記事だけど、荒木と話し合って掲載は無しにする。浮いたページ数は欲しい奴がいたら使っー…」
「待ってください。今回は熱愛報道で、佐藤の時の不祥事とは違う筈です」

高坂専務の話を遮るように、田所副編集長が入る。

「熱愛であっても、イメージを損なう行為は世間が厳しいんだよ。荒木はそこを見て、判断した。秋山と三輪っちが撮った写真についても、個別に話をするから秋山は後で専務室に来てね」
「消すことなんてしたくないんですけど」
「そうだよね」

秋山先輩がムスッとしながら高坂専務に言うと、高坂専務は苦笑しながら返事をする。

「他に原稿を書くか、書かないままで7月号を発売するかは夕方5時位に荒木ともう一度話し合う。その時は田所と佐藤、中畑も同席して」
「良いですけど、荒木編集長は今はどちらに?」

高坂専務の話に田所副編集長は渋々という形で返事をし、仁さんの所在をたずねた。

「『1人にして』って。佐藤も分かると思うけど、これは荒木自身で乗り越えないといけないから、今はそっとしてあげよう。俺は専務室に戻るけど、秋山も専務室に行くよ」
「………はい」

高坂専務と秋山先輩は会議室を出て行き、お昼の終了のチャイムが鳴った。

「田所さん、俺は追加でページ数を貰っても1ミリも嬉しくないので断りますよ」

水野先輩が田所副編集長に向けてそう言うと、高橋先輩が頷く。

「俺も水野さんと同意です。自分のページ数で届けたいですし、企画の部分もやっと形になったので、企画の掲載順に関しては強気に言います」
「俺もサマーリーグは巻頭で掲載することは譲れないし、今は出来る事で進めよう。佐藤もBの進捗はどう?」
「原稿の下書きは進めているけど、写真の部分はまだ集まってない」
「分かった。伊東はこれから取材だけど、球団やスポンサーに気になることがあったら荒木編集長や俺と佐藤に逐一報告をお願い」
「分かりました。今日は夜7時に終わり予定ですが、直帰はしないで四つ葉に戻ってきます」
「うん。気をつけて」

田所副編集長が場を纏めあげ、私も今は目の前の事に取り組もうと、指を動かし続けた。
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