スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
夕方5時になり、田所副編集長達は隣の会議室を使うとのことで出て行き、私は山田先輩と一緒に先輩達から送られた写真の整理をする。

「B班の写真、特に高橋の水泳はかなり良いね」
「クロールの顔を水面から出すときのアングルが良いですね」
「ほんとだ。水しぶきの粒の形も見えていて、凄いな」

2人で高橋先輩の写真を見ていると、当の本人は照れくさそうにしている。

「ありがとうございます。秋山さんが撮り方を教えてくれたおかげで、水しぶきの粒が撮れるようになったんですよ」
「褒めても何も出ない」

高橋先輩が褒めると、秋山先輩は冷静に返す。

「でもこの粒をはっきり撮れるのは凄いですよ」
「ほんとだよ」
「………ありがとうございます」

私と山田先輩も褒めると、今度は間をあけて返事をするも少し口元が微笑んでいた。

「秋山先輩ってここに入るきっかけって何ですか?」
「元々写真を撮るのが好きで、中学の時に運動会で親が撮った写真よりも自分で撮りたくなって、そこからカメラにハマった」

私の問いに秋山先輩が答え、一眼カメラを手に取る。

「四つ葉に決めたのは荒木編集長が撮った写真を見て、その後は“Scoperta”の雑誌を毎月買って、ここだったら俺らしく写真を撮れると思ったから面接を受けた」
「その後、俺が四つ葉に面接に来て秋山に会ったんだよな」
「そう。高坂専務が『写真を撮れるのは良いけどうちは原稿を書かないといけないし、君は相棒を作った方が良いね』で、次の日に水野に会った」

秋山先輩がここに入った経緯と水野先輩との出会いを話し、私もだけど仁さんや“Scoperta”がきっかけで皆ここで働きたいって思ったんだ。

「私も荒木編集長が書いた企画のページを読んで、働きたいって思ったんです」
「やっぱ荒木編集長は凄いよね。皆のきっかけになるんだもん」

篠田先輩がそう言うと皆で頷き、私はシンクロの写真を眺め、仁さんが今どんな心境でいるのか…、勝手に予想するのもおかしいけど、心配は心配で。

会議室の時計の時刻が午後6時48分になろうとした所で会議室のドアが開き、田所副編集長達が入って来て、仁さんの姿は無かった。

3人がホワイトボードの前に行き、私達の方に振り返ると、私は姿勢を正して田所副編集長達を見る。

「結論から言うと、シンクロの記事の無しは決定で変更無し。7月号の内容だけど…」

田所副編集長から話し合いの結論から述べられ、ゴクッと唾を飲む。

「新しく原稿は作らず、シンクロの記事を抜いた状態で7月号の進行をする事になった」
「………」

田所副編集長の口から7月号について語られ、私は何も言えなくて。

「俺達は荒木編集長のシンクロは載せて欲しいと粘ったけど、『決めたから』と本人がそう言うので、それ以上は言えなかった」
「広告についてはシンクロ関係の部分は白紙になったから、7月号に広告を載せる企業に追加で無いかを相談することになったよ」

佐藤さん、中畑さんがそれぞれ会議での話し合いを説明していると、会議室のドアが開いて仁さんが入って来て、空気がピリッとする。

本人は3人の所に来て、私達の方に向いた。

「田所達から説明は聞いたと思う。今は出来る事を1つ1つ進め、形にしよう」
「本当に荒木編集長は納得しているんですか?」

仁さんの言葉に高橋先輩が問う。

「している。井上監督が明日話しをしたいとのことで、午前11時から四つ葉を出る。俺は伊東の進捗を確認と、3人はこのまま残って。他の皆は申し訳ないけど上がって欲しい」
「分かりました」

高橋先輩は口元をギュッとして荷物を纏め始め、他先輩達も私も帰り支度をして会議室を出た。

それぞれバラバラで藍山駅に向かい、私もシェアハウスの最寄り駅に向けて電車に乗る。

最寄り駅についてとぼとぼと歩きながらシェアハウスに帰り、リビングの小さいソファに座って、ピンクのクッションをギュッと抱きしめて顔を埋めた。

私なんかよりも仁さんの方が…、こんなにも頑張っていたのにと悶々として、何も作る気も食べる気力がわかず、この日は私が就寝するまで仁さんはシェアハウスに帰って来なかった。
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