夫婦ですが何か?Ⅱ
Side 新崎
さすがに眉根を寄せ溜め息をつかざるを得ない事態。
自分のうっかりミスとはいえ事は重大だとエレベーターホールの壁に寄りかかりながら頭を抱える。
すぐ傍では榊が我関せずと言いたげに、それでも指示されたままその場に留まってタブレットの画面を眺めている。
でも俺の溜め息はそれなりに拾い上げていたらしい。
「・・・溜め息ついてもどうにもならないでしょ?」
「楽天的ですね」
「まぁ、だって俺はお宅と違ってそれが生業でもないし、あいつに頼まれていたわけじゃないノープロブレム?」
「あなたの余計な言動行動も彼女を悪戯に困惑させてこうなったんでしょう?」
「俺は俺なりに助け舟として助言しただけ。むしろ感謝してほしいくらいだね昨日の夜だってさすがに見て見ぬふりは心苦しくて彼女を助けに戻ったんだから、」
「・・・・結果、余計に犯人が分からなくなってこっちも迷走しましたよ」
皮肉に言葉を返したのにフフンと軽く笑った男はすぐにまたタブレットに視線を戻す。
本当に気楽でいい。
この男と違って俺は仕事として彼女の周りを見張る事を頼まれていたんだ。
今から現れる筈の不機嫌な雇い主様に。
再びこの現状に溜め息をついて、一言目にはどんな嫌味を言われるかと頭を抱えていれば。
悪魔の到着音。
耳に響いた音に顔を上げればゆっくり開いた扉から焦る様子なく降りてきた男に俺も榊も視線を走らせる。
一瞬でピンと空気が張った。
特別その表情を怒りによって変形させているわけでもない。
怒鳴り散らして攻め込んでくるわけでもない。
ただ静かにその場に降り立つと、無表情の下に冷たく鋭い怒りを垣間見せ。
光を通せば綺麗に色味を揺らすグリーンアイに射抜かれ凍り付く。
これは・・・、
怒りの極地。
そう理解すると、まだ怒鳴り散らされ殴られた方がましだと感じてしまうほど。
「・・・・・・無能、」
やっと弾かれた言葉に即効性の猛毒でも仕込まれていたみたいに表情が歪む。
そしてその視線が榊にも向けられるとさすがにタブレットから視線を外した男が悪魔と対峙する。
「何?俺にも何か不満?」
「・・・・・・余計な介入が事態を混乱させた」
「結果的にはだろ?その怒りを俺に向けるのはお門違いだ」
賞賛に値するのか、愚かなのか。
ニッと笑みまでつけ言葉を返した男。