薔薇の夢をあなたに
ドレッサーの前から立ち上がった瞬間、突然耐え難い頭痛に襲われた。あまりの痛みに私は呻きながらしゃがみこむ。

「ちょっと、ジュリエット!どうしたの!?」

ロゼットさんは私の異常に気が付き体を支えててくれる遠くから、ロゼットさんの猛獣たちの咆哮が聞こえる。

すさまじい速さでイメージが頭の中に流れ込んでくる。

「あ、あ…。何で気付かなかったの…私…」

恐ろしい現実がすぐそこまで迫っていた。

「ジュリエット、いったいどうしたの!?」
真っ青な顔で覗き込まれる。

私はやっとのことで頭を振る。少しずつ意識がはっきりしてくる。

「ロゼットさん。ごめんなさい。私…気付けなかった…」

涙で視界が霞む。

「どうしたの!?何か見えたのね!!教えなさい!!」

私は震える声でささやく。
「このテントを目指して…信じられない数の魔族が……近づいてる。」

真っ白な顔で唇を引き結ぶ。ロゼットさんの頭がすごいスピードで回転しているのが分かる。

「敵の数と規模は?このテントが狙いなら、今すぐ街中からでないと、被害が周辺に及んでしまうわ。」

「100は超えている…わ。しかも、もう移動している時間はない…わ…。」

私は魔力を抑えて、少し目を閉じた。外の情報を見ないようにすれば、すこし脳がはっきりしてくる。

今日は公演がお休みということもあり、テント内に団員は少ない。もっとも手薄な時を狙われた。

完全にやられた。
舞踏会にうかれて警備の目を怠った私の責任だ。

私が意識しないでも、外の魔族のビジョンが入ってきたということは、すでにかなり近づかれている。

「ここで戦うしかないのね。」

ロゼットさんは、立ち上がった。次の瞬間、割れるような爆音がテントに響き渡った。

ガァン!!!ガァン!!!!!


外に飛び出すと、おびただしい数の悪魔や魔物たちが結界にはりついていた。そのせいであたりはほとんど光がなかった。

「い…いや……。」
魔族たちの黄色い目が私を見つめているような気がした。

「どうした!!?」
団長が飛び出してきた、周囲を見渡すと瞬時にこの異常な状況を理解したようだ。

「今から一分後にロゼットはテントの結界を解け!!周囲の民家に魔族の被害は出さない!!ここで処理するぞ!!テント内、総員武装し出ろ!!絶対死ぬなよ!!!」

残っていたメンバーもあっという間に出てくる。私も震える手でペンダントから、レイピアを取り出し構える。

体がガタガタ震え、目からは涙がこぼれ続けた。視界は360度魔族に覆われている。私がこの窮地にみんなを追いやったんだ…。

私が…、私がきちんと見張っていなかったから…
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