薔薇の夢をあなたに
急に呼びかけられた私は、驚いて振り返った。
「あぁ…レイか…よかった…」






そこにいたのは、昼間の軍服姿のままのレイだった。
「驚かせてしまいましたか?おや、今宵の月は満月ですか…」









並んで月を見上げるレイ。月明かりに照らされる横顔はこの世のものとは思えない神秘的な美しさだった。






「レイ、まだ寝ないの?」まだ昼間の軍服姿を疑問に思って尋ねる。






「あぁ、これですか。」レイは軍服の袖をひらりと持ち上げる。
「今、皆の寝室を回ってきたところです。癒しの術を与えたので、明日になれば回復しているはずですよ。」






優しく微笑むレイ。心なしか顔色が悪い気がする。









「ちょ、ちょっと!いったい何人に魔法を使ったの!?回復魔法は魔力の消費が激しいのよ!」
私はあわててレイに魔力を分けようとした。









スッと身を引くレイ。
「ジュリエット様からそのようなことをしていくわけには参りません。僕は少し休めば回復するので。



ジュリエット様もお疲れでしょう、早くお休みくださいね。僕はこれで。」









優しく笑うと、彼は背を向けて歩き去ろうとした。
「待って!」私は思わず彼の裾を掴んでいた。
「レイ…眠れないの…お願い、側にいて…」







どうしても今一人になりたくなかった、また、頭痛が激しくなってきていた。お願い…私を一人にしないで…








「ジュリエット様?」私の様子に気づいたレイは、かがんで私と目線を合わせてくれる。









「僕でよければ、いつまでもお傍にいますよ。だから、落ち着いてください…」
優しく髪をすかれる、彼のぬくもりに少しずつ落ち着き始める。








「ジュリエット様は真夜中に抜け出すのがお好きなんですね。頭の片隅に留めておくことにしましょう。」
「レイ…ごめんなさい…。レイも疲れているのに…」
「いえ、僕のことは気になさらないで。」










レイは髪に触れていた手を離そうとした、私はとっさにその手を掴む。
「お願い…離さないで…」私は潤む瞳でレイを見上げる。今このぬくもりを手放すことはできない。







レイはさっと顔をそらす。
「レイ…?」






「もし、それを天然でやっているのなら、僕はこの世でジュリエット様が一番恐ろしいですよ…」
向き直ると、レイはしっかりと手を繋ぎなおしてくれた。








「ジュリエット様、せっかくの月夜です。少し外を散歩しませんか?」
「うん!」私は強く手を握り返してレイの後を追った。
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