「恋って、認めて。先生」

「あっちゃん、コレ食べる?」

 人懐っこいタイプの男子・田宮(たみや)君が、ポッキーをくれた。私は、あらかじめ用意しておいたファミリーパックのチョコレート菓子をバッグから取り出し、彼に渡した。

「ありがとう。これ、良かったら皆で分けて?」
「やったあ、ありがと!皆!あっちゃんからお菓子もらったよ~」

 皆わーっと盛り上がり、各席からお礼の言葉が飛んでくる。もしかしたらに備えて用意しておいて良かった。

 って、しまった!比奈守君、甘いのは苦手って言ってたよね。今のお菓子、食べられないんじゃ……。ううん。一人の生徒の好みを優先するなんて、それこそ変だよね。ひいきはダメダメ。平常心、平常心で……。

 私の心を読んだみたいなタイミングで、比奈守君の友達が言った。

「でも、夕ってチョコだめだよな?もらおっか?」

 そうなるよね……。少しだけ残念な気分でいると、比奈守君が珍しく大きな声で返した。

「いや、食べる!」

 えっ!?

「甘いの平気になった」

 強く言い、比奈守君は私があげたチョコレート菓子を食べているらしかった。そんな彼のそばで友人達が、

「無理するなー?」

 と口々に心配していたけど、比奈守君は結局、誰にもチョコレート菓子を渡さなかった。

 
 食べ物の好き嫌いって、そんなに簡単に克服できるものかな?私にも苦手な食べ物がいくつかあるけど、この先何があっても苦手意識を変えられる気がしない。

 そんなことを考えていると、水族館に着いた。初めて訪れる場所。生徒達の雰囲気につられ、私もウキウキしていた。

「それでは、夕方まで班ごとに自由行動してもらいます。もし何か困ったことが起きたら、しおりに書いてある先生のスマホの番号に連絡を下さい。なるべく早く駆けつけますから」

 現地で生徒達を整列させ、私はひととおり説明をした。

「私に連絡しづらい場合、同じくしおりに載っている他のクラスの先生方の番号にかけてもらっても大丈夫です。こちらも何かあって対応できないこともあるかもしれないので。そうならないよう気を付けますが。念のため、しおりは大切に扱って下さいね」

 長すぎる挨拶はヤボというもの。早々に説明を終え、私はレクリエーション開始を告げた。

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