「恋って、認めて。先生」

 あなたは神だ!ドキドキする心をごまかすために、私はおおげさに喜んで比奈守君をおだてた。

「ブラックコーヒーが好きだったり、甘いものが苦手だったり、こうして助けてくれたり……。比奈守君は本当に大人だね。私も早く先生らしくならないとなぁ」
「……大人ぶりたかっただけですよ」

 深みを増す比奈守君の視線がこちらに向き、体が固まった。目を離せなくなる。

「先生の前だから、ですかね?」
「それって、どういう……?」

 私が大人だからそれに合わせてたってこと?でも、何で……?普通、生徒はそんなことまで気にしないよね?

 また、胸が震える。顔が熱くなりそうなのを必死に我慢した。

 言葉を探すように視線を泳がせた後、比奈守君はポツリと言った。

「いっこだけ、質問いいですか?」
「うん、いいよ。私で答えられることならいいけど……」

 話をそらされたことにホッとしたような、ガッカリしたような……。何とも言えない気分を隠し、私は穏やかな顔を作った。

「他校にいる友達の話なんですけど」

 そう前置きし、比奈守君は言った。

「担任の女の先生のことを好きになっちゃったらしいんですよね。そういうの、先生はどう思いますか?」
「えっ?そんな大事な相談、私なんかが答えていいのかな?」
「先生に訊(き)きたいんです」

 比奈守君は真剣だった。

 彼とは色々と不思議な関わりがあって、その分悩んだりもしたけど、そんな大切な話をしてもらえるくらいに信頼されていることがとても嬉しかった。きっと、比奈守君も考えに考えて私に相談を持ちかけてくれたんだ。

 丁寧に、誠実に、思いを語ってみよう。

「好きになるのは自然なことだし、無理に我慢するのはつらいと思うから、想うのは自由だと思うよ」
「じゃあ、告白するのとかは?」
「告白、かあ……」
「生徒に告白されたら、教師的にはやっぱり迷惑ですかね?」
「告白されて嫌な気持ちになる人はいないと思うよ。教師だって人間だから」

 私は、自分の考えをそのまま口にした。

「ただ、私だったら、告白されることが迷惑というより、生徒の立場を真っ先に考えてお付き合いするのとかは断ると思う」
「先生もその生徒のことが好きだったとしても?」
「うん。好きとは言えないよ、やっぱり」
「どうしてですか?教師も人間って言ったばっかじゃないですか」

 終始落ち着いていた比奈守君の声音に、悲しみや戸惑いが混じりだしたような気がした。それでも私は、いち教師としての主張を曲げたりはできない。

「比奈守君達高校生には将来があるでしょ?これから大学に行ったり就職したり、留学なんかもするかもしれない。そんな無限の可能性がある生徒を、恋なんて不確かなもので縛り付けるなんて、私にはできないな。あっ、比奈守君の友達が好きな先生がどういう判断をするかは分からないけどね!?」

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