「恋って、認めて。先生」

「生徒がダメなら、先生ってどんな相手と恋愛するんですか?」

 核心を突くような質問だった。比奈守君にとってはシンプルな疑問だったんだろう。でも、私にとってそれは痛い質問に違いなかった。

「難しい質問だなぁ……」

 精一杯穏やかな顔を作り、私は言った。

「そうだね。学生時代から付き合ってる人と仲良くしたり、同僚と結婚する人も多いみたいだよ。教師は出会いの少ない仕事だしね」

 無難に一般論を口にした。まさか、私は恋愛に興味ないよーなんてプライベートな話をするわけにもいかないし。


 一方、比奈守君は腑(ふ)に落ちないといった様子で、

「先生は、今、付き合……」

 そう言いかけたけど、話題をそらすことで私はそれ以上質問をさせなかった。比奈守君が訊いてきそうなことが予想ついたから。

「そういえば、バスでは無理させちゃってごめんね」

 皆に配ったチョコレート菓子の件を、私は口にした。

「甘いもの苦手なのに食べてたでしょ?気遣わせたよね」
「チョコ嫌いな人の方が珍しいし、仕方ないですよ。それに……。気ィ遣ったわけじゃないんで」

 いつになくはっきりした声音で、比奈守君は言った。

「先生が配ってくれた物だから絶対誰にもあげたくなかった。それだけです」
「え……?」

 それって、どういう意味……?質問をはぐらかしたのも無駄だったと言わんばかりに、またドキドキが戻ってくる。

 比奈守君の目がまっすぐこっちを向いてるのが分かるけど、直視できずうつむいてしまった。

 私の気持ちを知ってか知らずか、比奈守君はそれ以上何も言わず、すっと立ち上がる。

「せっかくなんで、道案内ついでに色々見て回りませんか?」
「でも、比奈守君は班行動しないと。高校生活最後のレクリエーションなんだし、後悔のないよう楽しんでほしいから」
「そうですね」

 一度はうなずいたものの、比奈守君はサラッと自己主張をした。

「あいつらには適当に戻るって伝えてあるんで大丈夫です。それに、後悔したくないんで」
「え……?」
「ホント、先生って鈍いですよね」

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