「恋って、認めて。先生」

「やっぱり、昨夜は寒かったですよね。体調、どうですか?」

 私の隣に座り、比奈守君は顔を覗き込んでくる。比奈守君の重みの分沈んだベッドに胸が跳ねるのを感じつつ、何でもないフリで答えた。

「もう平気だよ」

 本当は全然平気じゃなかった。熱はまだあるし、ノドの痛みもある。それに、比奈守君がそばにいるということが信じられなくて動揺している。

「連絡こなかったから、もう嫌われたのかと思った……。私、昨日、感じ悪かったし……」
「感じ悪くなかったですよ。連絡できなくてごめんね」
「っ……!」

 そっと私の肩を抱き寄せ、比奈守君は私の頭にキスをする。優しくてあたたかかった。

「昨日、雨に降られて、スマホダメになったんです。けっこう濡れたじゃないですか。あれ、防水製じゃなかったから」
「じゃあ、私のこと嫌いになって避けてたとかそういうのじゃ……」
「違いますよ。でも、不安にさせてごめんね」

 新しいスマホを制服のポケットから取り出し、比奈守君は私に顔を近付けた。

「学校終わってすぐ、ショップ行って機種変してきました。コレは防水なので、もう大丈夫です」

 また、雨の中でキスをしても大丈夫。そんなセリフに聞こえて、耳まで熱くなった。比奈守君は切なげに笑い、私にキスをしようとした。

「先生、昨日からずっと可愛い。好きだよ」
「可愛くないよ!すっぴんだし、髪ボサボサだし、ダメ……!」
「どうして?」
「私今風邪だから、うつしちゃう!」

 ドキドキしながら、比奈守君の胸を両手で押した。

「比奈守君、受験生なんだよ?もうすぐ体育祭だってあるし!」
「俺、今まで風邪ってあんまりひいたことないんですよ。たまにはひいてみるのも悪くないかなって」
「自ら望んでなるものでもないよっ!息苦しいだけだし、頭も熱くなるし、仕事に支障出るしっ!」
「たしかにそれはつらそうですね。……だったらなおさら、俺にうつしておかないと。一緒に雨に濡れたのに先生だけ風邪ひくなんて可哀想だから」

 比奈守君は言い、私をベッドに押し倒した。覆い被さる彼の顔は、男の人そのものだった。こんな顔をするなんて、教室では想像もしていなかった。


『一回、比奈守君に抱かれてみたら?』

 琉生の言葉を思い出し、全身が熱くなる。そうでなくても、この体勢はそういう雰囲気の前兆に感じられひどく緊張した。抵抗しなきゃいけないのに、風邪のせいで全力を出せないし、比奈守君の視線が熱くて身動きできなくなる。

 その体勢のまま、比奈守君は私の手を取り、無言で指先に唇を這わせた。

「ダメ……。比奈守君。私達は、そういうことしたらいけない関係なんだよ?」
「それ、本心だったらやめますけど……」
「え……?」
「こういうことするつもりで来たんじゃないけど……。そんな顔見せられたら止まらなくなります」

 そんな顔って、どんな顔!?鏡で確かめたくても、比奈守君に両手の自由を奪われちっとも動けない。

「先生は俺のこと求めてる。嬉しいです」

 比奈守君は言うなり、私の唇にキスをした。公園でのキスとは違う、濃厚な触れ方。その熱い唇で私の唇を挟んだり、奥を舌で探るようなーー。
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