「恋って、認めて。先生」

「今日も、ごちそうさまでした」
「こちらこそ、頻繁に来て下さって感謝しています」

 比奈守君のお母さんが、優しい笑みを浮かべて私に頭を下げる。

「少し、お話よろしいかしら?」

 店が空いているからか、お父さんは三人分のお茶を入れて私達を個室の席へ座らせた。私は琉生や純菜と顔を見合わせ、ご両親に案内されるがまま椅子に腰を下ろした。

「大城先生が夕(せき)の担任になられてから、家庭の空気も明るくなったんです。大城先生には、本当に感謝しているんです」
「ご家庭の雰囲気が、ですか…?」

 お母さんから思わぬことを言われ、私は驚いた。私だけでなく、純菜や琉生も何かを感じているのが、空気で分かる。

 お父さんが隣に座るのを見届け、お母さんは話し始めた。

「あの子には一つ年上のイトコがいるんですが、その子がとても優秀で人から好感を抱かれやすい性格だったのもあり、昔から夕は、親戚中から何かとその子と比較されていたんです」

 それは、知っている。三者面談の日、比奈守君が話してくれた。

「親戚中がそんな空気だったし、大人達も冗談半分で比べるようなことを言っていたから、私達親も、そういう話題に乗ってしまったんですよね……。本当に軽い気持ちで。それが悪かったのか、夕は、小学生の頃からだんだん笑わなくなって、私達に心を閉ざすようになったんです。親戚と一緒になってあの子を否定するような事ばかり言っていたんだから、当然ですよね……」

 お母さんは落ち込んだ面持ちで口元を押さえた。

「弟が生まれてからは、あの子も少し笑顔を見せるようになったんですが、私達への態度は変わらなくて、どことなく家の雰囲気も良くなくて……。あの子が家に居るだけで私達も緊張するように、いつしかなっていたんです。

 でも、今年の4月、久しぶりにあの子の雰囲気が明るいな〜って感じて『何かあったの?』って声をかけたら、『担任の先生がいい人だった』って話してくれて」
「夕があんなに話するの、久しぶりだよな」

 お父さんが口を開いた。

「日常の出来事どころか、起きた時も寝る前も挨拶すらしなかったアイツが、先生のことになるとよくしゃべるんだよ。な?」
「そうなのよ。大城先生にコーヒー買ってもらったとか、生徒を大事にする優しい先生だとか、自分から色々話してきて……」
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