魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 目が覚めたときには、もう太陽は真上を通り越していた。荷台の方に顔を向けると、マスター・クマゴンと帽子を被った御者の後ろ姿が見える。

「マスター・クマゴン、お腹空いたよ~」
「開口一番、それ?」

 マスター・クマゴンが呆れた顔で振り返った。

「ユウヒ様、布袋に果物が入っているから、食べさせてやって」

 クマゴンに言われて、相変わらず荷台の壁にもたれたままの勇飛くんが、手を伸ばして袋を取った。

「リンゴ、食べる?」
「うん」
「かじれる?」

 勇飛くんにリンゴを差し出されて、私は首を振る。

「ううん、あのときみたいにしてほしいな」

 上目遣いでチラリと見上げた。あのときの意味を理解して、勇飛くんの頬骨の辺りが紅くなる。

「さすがにリンゴは口移しでは……」
「冗談」

 クスッと笑うと、彼が私の額を小突く真似をした。

「セリ、キャラが崩壊してる」

 それは勇飛くんに言われたくないです。

「これなら食べられるだろ」

 勇飛くんが言って、ナイフでリンゴを薄く切ってくれた。

「ありがとう」
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