魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
「たまたま通りかかっただけですから」
「でも、何かお礼をしたいのですが……」

 妻の方に言われて、勇飛くんが微笑みながら言う。

「いいえ、当然のことをしたまでです。気になさらないでください」
「でも……」

 まだ何か言いたげだった妻は、ふと思いついたように背追い袋を背中から下ろした。

「このご時世、一番貴重なのは食べ物です。保存食の乾パンなのですが、よかったらお持ちください」
「でも、これはあなた方の食糧です。私たちも食べ物は持っていますから」

 勇飛くんが断ろうとしたけれど、妻は彼の手に小さな袋を押しつけた。

「受け取っていただかなければ、私の気が済まないんです」
「お願いします」

 夫にも頭を下げられ、勇飛くんはちょっと困った顔をしながらも受け取った。

「ありがとうございます、助かります」

 彼の言葉に、夫婦は声を揃えて「いいえ」と言った。

「剣士様も魔法使いさんもどうぞお気をつけて」

 夫婦は何度も頭を下げながら、森を私たちの来た方へと歩き始めた。

 私たちは二人の姿が小さくなるまで見送った。気づけば盗賊たちはいつの間にかいなくなっていた。
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