魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
「盗賊とはいえ、彼らを傷つけずにすんでよかった」

 勇飛くんが腰に手を当て、ホッとしたように言った。

「そうね。きっと本当は兄弟で助け合って生きてきたのかもしれないわね。でも、この食糧難で盗賊に身をやつしてしまったのかも」
「そうだな。十年前の飢饉のとき、ビクスバイト王は食糧庫を開放して、国民を飢えから救ったんだそうだ。今回も正気だったら、きっとそうしていただろうにね」
「きっとそうね。一刻も早く救い出して、窮状にある民に手を差し伸べてほしいな」

 私はお行儀悪いかなと思いつつ、勇飛くんの手の中の袋から乾パンを一枚取り出して口に入れた。パサパサしているけれど、さっきの魔法を使って消耗したエネルギーを補うには十分だ。

「じゃ、先を急ご」

 乾パンを三枚食べ終えて私が言うと、勇飛くんが先に歩き出した。

「やっぱりセリがいてくれてよかった」

 そう言った彼の横顔は、ほのかに朱に染まっていた。

< 178 / 234 >

この作品をシェア

pagetop