魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
「えーっと、お正月にお餅を食べ過ぎないようにと……」

 津久野さんが言ったとたん、クラス中がどっと沸いた。彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてうつむく。

「もう、世里ってば……」

 津久野さんの前の席の上屋(かみや)さんが振り返って苦笑いし、津久野さんは俺の方をチラッと見た。眉尻の下がったなんとも情けない顔。でも、それがかわいくて、俺は思わずクスリと笑ってしまう。

 あの顔、どうしても放っておけなくなるんだよね。さすがに今回は助け船を出せそうにないけど。

 担任の熊田先生が、津久野さんに怒鳴っている。

「誰が餅の話などするか! 津久野はもうお節料理のことで頭がいっぱいなのか? まったく。体調に気をつけて有意義な冬休みを過ごすようにと言ったんだ! わかったか、津久野!」
「はい、すみません」

 津久野さんが潤んだ瞳のまま小声で言った。「座っていいぞ」の先生の声で、すとんと椅子に座り、セミショートの柔らかい髪がふわっと踊った。

「それじゃ、掃除当番以外、帰ってよし」
< 217 / 234 >

この作品をシェア

pagetop