魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 私は熊田先生、もといマスター・クマゴンに教えられた通りに歩いて、村はずれにある魔法図書館を目指した。私の背丈ほどの石塀で囲まれた村は、村と言いつつも広大で、緩やかな坂道を上っていくうちに息が上がってきた。それでも前方に尖塔のある円形の古い建物が見えてきて、ホッとする。

 そこを目指して歩いて行くと、マスター・クマゴンの言ってた“ひどい状態”の意味がほどなくわかってきた。その建物の壁はところどころ崩れかけていて、木のドアは腐りかけで、窓枠は朽ちて落ち、周囲も草が伸び放題なのだ。

「変な虫とかいないよね……」

 半分倒れている木の門の間を抜け、警戒しながら細い道を歩いて建物に近づいた。入り口とおぼしき焦げ茶色の木の扉をノックする。

「おはようございます、誰かいますか?」

 耳を澄ませたが、誰の声も返ってこない。聞こえてくるのは小鳥のさえずりと、風が木立の葉を揺するサワサワとした音だけ。

 しばらく待ってもう一度ノックして声をかけたが、やっぱり返事はなかった。私は木の扉を引いてみる。

「あれ?」

 ドアはびくともしない。魔法図書館だけに呪文を言わないと開かないとか?

 ドアを開ける呪文と言えば、あれしかないわよね。

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