魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
「開け、ごま」

 つぶやくように言ってみたが、ドアはうんともすんとも言わない。

 声が小さかったかな。

 今度は大きな声で言ってみる。

「開けぇ、ごま!」

 それでも開かない。えーい、日本語がダメなら英語で!

「オープン、セサミ!」

 普通ならここでギギギギーと不気味な音を立てながらドアが開くはずなのに、目の前の扉には何も起こらない。

「もう、何よう!」

 なんだか腹が立ってドアを蹴っ飛ばした瞬間、ドアが開いた。私は勢い余ってよろけながら中に入った。

「なんだ、押せばよかったのね」

 無駄に汗掻いちゃったよ。

 背後でドアが耳障りな音を立てながら閉まった。

「それにしてもほこりっぽいなぁ」

 見上げた天井に明かり取りの窓があり、午前の光が四角く差し込んでいて、中の様子がぼんやりとわかる。中央にらせん状の階段があって、それを囲むように円形に本棚があり、革の背表紙の本がぎっしりと並んでいる。

「読めるのあるかな」

 静かすぎるのが不気味で、ついつい独り言を言いながら、私は書棚に近づいた。その中の一冊を抜き出そうとしたとき、突然太くて低い声に怒鳴られた。

< 53 / 234 >

この作品をシェア

pagetop