魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 勇飛くんの手が私の手から離れ、肩を抱いた。そのまま引き寄せられて、ゆっくり、静かに彼の唇が近づいてくる。もう心臓はドキドキを通り越してバクバク言ってる!

 私がそっと目を閉じたとき、遠くから誰かの呼ぶ声がした。

「剣士様ぁ! ユウヒ様ぁ! どこにいらっしゃいますかぁ!」

 勇飛くんがさっと手を離して、声のする方向を見た。百メートルほど先に、あちこち見回しながら走ってくる一人の男の村人の姿が見える。

「何があったんだろう」

 勇飛くんが心配そうに言って石塀から飛び降り、私に向かって片手を伸ばした。その手につかまって、私も石塀から降りる。

「セリはここで待ってて」

 彼に言われて、私は石塀の横の大木の陰に移動した。勇飛くんは村人の方へ足早に近づいていった。村人が彼に気づいて走り寄ってくる。二人は私から声が聞こえる場所で立ち止まった。

「どうしたんですか」

 勇飛くんの声に、男性のあわてた声が答える。
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