魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 小屋があった場所では、かつて小屋だったものが、ゴウゴウと激しい音を立てながらオレンジ色の炎を噴き上げていた。炎の前に、半狂乱になっているマスター・クマゴンの姿がある。

「セリ! セリ!」

 今にも家に飛び込まんばかりのマスターを、村人が数人がかりで必死に抑えている。ほかにもたくさんの村人がいて、燃え上がる炎を消そうと懸命にバケツの水をかけている。

「クマゴン!」

 私が駆け寄ると、マスター・クマゴンは幽霊でも見たかのように、私を頭の先からつま先まで見ていたが、どうやら本物らしいとわかったのか、村人の手を振りほどいて私に抱きついた。

「セリぃ! んもう、あんた、どこ行ってたのよ! あたしはてっきり炎の中に閉じ込められてしまったのかと思って、胸がつぶれる思いだったんだからねっ!」
「ごめんなさい、この通り無事ですぅ」

 巨体に押しつぶされそうになりながらどうにか言うと、マスター・クマゴンが泣き笑いの顔になった。

「だから、マスター・クマゴンとお呼びってば」
「細かいことは気にしないでくださいよーっ」

 口答えしつつも、もらい泣きをしてしまう。
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