in theクローゼット
side-篠塚愛子
* * *
私の口の中で、さっき食べたチョコレートの甘さがまとわりつく。
香坂さんたち仲のいいクラスメイトと交換した友チョコ。
去年は舞ともチョコレートを交換したけど、舞のは友チョコで私のは本命チョコだった。
今年も同じだと思ってたけど、舞はいなくなってしまった。
舞の転校は仕方がないことだし、舞に告白したことも後悔していない。
でもやっぱり、寂しさはぬぐえない。
『……ねえ、知ってる?』
さっき香坂さんたちと交わした会話を思い出していた。
『チョコレートって、媚薬なんだよ』
前になにかのテレビで言っていた、チョコレートの秘密。
『人が恋に落ちると分泌される脳内物質が含まれているんだって』
どうして好きな人にチョコレートを贈るのか。
『ほんの少しだけど』
どうして、稲葉にチョコレートを贈らせたいのか。
少し、最近の私はおかしい気がする。
妙にハイテンションというか、カラ元気というか、そのくせ感情の起伏が激しくてすぐに泣きたくなってしまう。
原因は考えなくてもわかる。
舞とお別れしたからだ。
だから、稲葉を騙して青山へのチョコレートをつくらせたりした。
私の代わりに。
チョコレートは中毒になる。
チョコレートの中に含まれるテオブロミンは常習性のある劇薬らしい。