in theクローゼット

「あ!! そういえば俺……林間学校ン時稲葉と同室だった!」

「俺もだ! うっわ、最悪」

「げぇ〜、気持ちワルッ」


 水無瀬の一言を皮切りに、数人の男子が騒ぎ出す。

 吐くしぐさをしてみせたりと、悪乗りが広がる。


「おまっ……!」


 おまえら、いいかげんにしろ!

 そう怒鳴ろうとしたが、最後まで言い切ることは出来なかった。

 パシンと頬を打つ音に、言葉を失う。

 打たれたのは水無瀬。

 打ったのは香坂さんだった。


「瑞穂……」


 呆然とした水無瀬が、香坂の下の名前をつぶやく。

 普段は大人しい香坂さんの意外な行動に、みんな驚いていた。

 目に涙を浮かべて怒る香坂さんの姿に、俺は忘れかけていた光景を思い出す。

 あれは、まだ中学に入って間もない頃。

 俺がはじめて篠塚さんを知り、篠塚さんを好きになるきっかけとなった日の光景だ。
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